ポリオキシエチレンアルキルエーテル(AE)アルキルエーテル硫酸エステルナトリウム(AES)について考える
ホルムアルデヒドの生成の心配
最近大々的なコマーシャルで売り出した「アタックゼロ」など、「すすぎ1回でOK」を謳う洗濯用洗剤が増えています。
あるメーカーが新製品を売り出すと、激しく競争している企業間の競争原理による同質的行動が働いて、今や洗濯用洗剤は「すすぎ1回」が当たり前になりつつあるようだ。
花王、ライオン、P&Gなど大手油脂製品のメーカーで構成される日本石鹸洗剤工業会は、「節電に寄与する」として、「すすぎ1回」をアピールしている製品を推奨している。
そこで、近年「自然環境への影響が小さい」「手肌に優しい」などといって、ベビー用やオーガニック洗剤と称する洗濯洗剤に多用されるようになった合成界面活性剤・ポリオキシエチレンアルキルエーテル(アルコールエトキシレートともいう、以後AEと略す)と、アルキルエーテル硫酸エステルナトリウム(ポリオキシエチレン硫酸エステルナトリウムともいう、以後AESと略す)について考察します。
しばらく難しい用語や引用が続きますが、我慢してお付き合いください。
■ AE、AESに関する日本石鹸洗剤工業会の見解(注1)
「通常想定される使用条件下において、ヒト健康および生態系に影響を及ぼすリスクは極めて低く、安全に使用できる洗浄成分と考えられる。」
日本石鹸洗剤工業会は安全を強調するが、実際にはどうなのか。
AEに関する第三者データを紹介します。(AESには詳細な第三者データがない)
■「PRTR 情報を用いた東京都内水域における高リスク化学物質のスクリーニング」(pdf)から
東京都環境科学研究所年報(2017)
「PEC/PNEC(注2) が1を超え、生態影響が懸念される物質は、ジクロルボス、フェニトロチオン、ダイアジノン(防疫用殺虫剤)、AE、LAS、AO(界面活性剤)、ヒドラジン、2-アミノエタノールであった。国際的にも生態系を考慮した化学物質管理が求められていることから、今後は、生態リスクを考慮した環境実態調査が望まれる。」
■「家庭用洗浄剤に関する化学物質の環境排出量・リスクの推計手法の構築」(pdf)から
(2016.3.30)
「オランダ環境省と石鹸洗剤工業会が共同で評価を行い、水棲生物への最大許容濃度(無影響濃度)を110μg/Lとしている。近畿の9水系の河川中、由良川、大和川、加古川の年間平均濃度は110μg/L以上であり、生態系に影響を及ぼすリスクは高いということが示唆された。
以上のことから、通常家庭使用条件下においてAEは生態系に影響を及ぼすリスクは高く、水生生物保全するためには、AEの生態リスク管理が非常に重要と考えられる。」
■「AEの水生生物に対する急性毒性およびヒト健康に対するリスク評価」(pdf)から
新エネルギー・産業技術総合開発機構・化学物質の初期リスク評価書 Ver.1.0 No.89
「ポリ(オキシエチレン)アルキルエーテル(アルキル基の炭素数が 12 から 15 までのもの及びその混合物に限る。)」2007年3月(修正版)
31ページ
8.3.3 感作性から
「長期間の保存、取扱い作業及び輸送を想定した AE の酸化分解物と感作性を調べた試験報告がある。AE は長期間日照下あるいは遮光下で空気暴露されると、酸化を受けてアルデヒド化合物やホルムアルデヒドを生ずる。そこで、C12AE5 を室温、日照下で 8 か月間保存したところ、出発物質の 0.1% (w/v) に相当する 5 種のアルデヒド化合物と 0.3%のホルムアルデヒドが検出された。」
43ページ
8.4 ヒト健康への影響 (まとめ)から
「AE は皮膚及び眼に軽度から強度までの刺激性を示すが、0.1%以下の濃度では刺激性は無刺激から軽微である。また、皮膚感作性を有しない。但し、AE は長期間空気と接すると徐々に酸化され、感作性を示すアルデヒド化合物及びホルムアルデヒドを生ずる可能性がある。」
46ページ
9.1.4環境中の生物に対するリスク評価結果から
「現時点では AE が環境中の水生生物に悪影響を及ぼしていることが示唆される。したがって、AE は暴露評価を主体とした詳細な調査、解析及び評価等を行う必要がある候補物質である。」
48ページ
9.2.4ヒト健康に対するリスク評価結果から
「現時点では AE がヒト健康(経口経路)に悪影響を及ぼすことはないと判断する。
一方、経皮経路のリスクの有無に関して結論づけることはできない。今後、経皮経路のNOAEL(注3)を求める試験とともに、経皮暴露量及び体内移行率に関する情報の収集が必要である。
」
日本石鹸洗剤工業会のいう「通常想定される使用条件下」がミソのようだ。
また、経皮経路のリスクはまだ分からないのだから、安全とは言い切れないだろう。
日本石鹸洗剤工業会のリスク評価は、消費者としては鵜呑みにしない方が良いと思う。
特に問題なのは、ホルムアルデヒドの生成だ。
ポリオキシエチレン(ポリエチレンオキシドともいう、POE)は石油精製から得られるエチレンから酸化エチレン(エチレンオキサイド、エチレンオキシドともいう)を作り、これを重合したもの。
AEは油脂由来の高級アルコールと石油由来の高級アルコールにエチレンオキサイドを付加させて作られ、AESはAEに硫酸化剤(三酸化イオウ)を加え、水酸化ナトリウムで中和して作られる。
メタノール(メチルアルコール)が酸化したものはホルムアルデヒド
シックハウスの原因物質といわれ、発がん性があるということは広く知られている
エタノール(エチルアルコール)が酸化したものはアセトアルデヒド
お酒を飲んだときに動悸や吐き気、頭痛などを引き起こす有害物質
アルコールは通称としてはエタノールをさすが、メタノールもアルコールの一種
開封して長期間空気に触れたり、洗濯をしてすすぎが不十分で衣類に残留したAEやAESが、干したりタンスにしまい込んでいる間に酸化してホルムアルデヒドを生成するのは大きな問題である。
(AESの第三者リスク評価はないが、原料、製造方法から見て、ホルムアルデヒドの生成は当然考えられる。)
AEやAESを配合する製品にはホルムアルデヒドを生成する心配はないのか、洗剤には検出されないから問題にしていないのか、よくわからない。
AEやAESを生産する工程で副生成される物質で洗剤にも混入しており、人に対して発がん性が懸念されている物質1,4-ジオキサン(注4)については、第三者データ(注5)で、「一般の人々については、リスクの懸念はない」との評価がされているが、ホルムアルデヒドに関して、日本石鹸洗剤工業会やメーカーが何らかの対策を取ったという情報は見当たらない。
この問題については、「貯蔵安定性非イオンおよびアニオン界面活性剤の製造方法」(注6)という特許申請の情報以外には見つかっていません。
AE、AESホルムアルデヒドに関する情報はほとんどないが、消費者としては疑った方が賢明だと思う。
ホルムアルデヒドは水に溶けやすいので、一度洗濯をすれば、ほぼ取り除くことができるが、洗濯後、衣類に残留した洗剤が酸化してホルムアルデヒドが生成するのだから、しばらくの間収納していた衣類は着る前に水洗いする必要がありそうだ。
日本石鹸洗剤工業会は「安全性のモノサシはリスク」として、「毒性の強いものも暴露量が少ないのなら安全です。一方、毒性の弱いものも暴露量が多ければ危険です。」として、合成界面活性剤の毒性の強さは認めています。
「暴露量が少ないのなら安全」と言い切っていいのか。
特に生態系において、合成界面活性剤の毒性は「安全でない」ことが第三者データによって実証されている。
AEは、工業用洗浄剤である内分泌かく乱物質(環境ホルモン)としての疑いがあるノニルフェノールエトキシレート(NPE)や特に生態毒性に問題のある直鎖アルキルベンゼンスルフォン酸ナトリウム(LAS)(注7)の代替物質として開発され、家庭用洗浄剤だけでなく、工業用洗浄剤においても使用量が増え続けている。
「すすぎ一回が節電や節水になる」といっても、洗剤成分が洗濯物に残留したり、有害な物質が生成するようでは洗濯の本来の目的が失われてしまう。
特に気になるのは、ベビー用の洗濯用洗剤にも「すすぎ1回」タイプが増えていることだ。
通常の洗濯でもすすぎが十分にできているか心配ですが、特に皮膚の厚さが成人の約半分で、肌のバリア機能が不十分な赤ちゃんの衣類の洗濯はすすぎ1回で大丈夫だろうか。
赤ちゃん用の洗濯洗剤には「肌に優しい」として、AEやAESが配合されたものが多い。
中にはLASも配合されたものがある。
赤ちゃんの衣類の洗濯には、すすぎ2回で洗剤成分がほとんど残らないしヘンなものが残留しない石けんがお勧め。
合成洗剤を使う場合は、すすぎをしっかりする、できれば3回をお勧めします。
石鹸百科『「すすぎ1回」はホントに大丈夫?』を参考にしてください。
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アルカリ助剤として炭酸塩を配合した洗濯用粉石鹸です。洗濯液の弱アルカリをよく保ちスッキリと洗い上げます。残り湯など20~40℃の温水を使い、事前によく溶かすのがオススメ。
(注1)
「界面活性剤のヒト健康影響および環境影響に関するリスク評価」(2001年10月)
「ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩(AES)のヒト健康影響と環境影響に関するリスク評価結果について」(2011年12月)
(注2)
予測無影響濃度(PNEC)と予測環境濃度(PEC)の比較から,環境生物への影響の有無についての評価
PEC/PNEC≧1 影響あり
PEC/PNEC<1 影響なし
影響ありの場合は直ちに対策が必要。影響なしの場合でも,継続的な影響評価が必要と考えられる。
(注3)NOAEL(No Observed Adverse Effect Level:無毒性量)
動物試験などで求められた、生涯にわたって毎日摂取させても、病気などの有害な影響が出ない最大量のこと
(注4)
環境省・1,4-ジオキサンに関する物質情報(pdf)
(注5)
中西準子ら (2005). 1,4‐ジオキサン [詳細リスク評価書シリーズ 2]、丸善(pdf)
(注6)
「貯蔵安定性非イオンおよびアニオン界面活性剤の製造方法」から抜粋
「先行技術 ポリエチレングリコールエーテル鎖の形態でエチレンオキサイド単位を含有する非イオンおよびアニオン界面活性剤の貯蔵中に、ポリエーテル鎖の酸化分解に よって、ホルムアルデヒドとギ酸が形成することがある。最適な製品の質の点で、これらの望ましくない副生成物の形成を最小量にするかまたは完全に防止する必要がある。」
「出願人が行った広範な研究からは、トコフェノール(Toc)、ジ- tert.-ブチルヒドロキシトルエン(BHT)、ジ-tert.-ブチルヒドロキシアニ ソール(BHA)、アスコルビルパルミテートまたはクエン酸のような油脂を安 定化するのに大変適した既知の酸化防止剤が、完全な効果??発揮せず、場合によっては、製品の色に悪影響を及ぼすことが分かった。」
アスコルビン酸が、非イオンおよびアニオン界面活性剤中でのホルム アルデヒドとギ酸の形成を効果的に抑制する」
(注7)
環境省・直鎖アルキルベンゼンスルフォン酸およびその塩(pdf)